Nitto

ESG経営での
「グローバルニッチトップ™」戦略

ESG経営での「グローバルニッチトップ™」戦略

#1 進化する日東電工

人と地球環境に寄り添い
新たな領域での価値の創出めざす

人と地球環境に寄り添い 新たな領域での価値の創出めざす

人と地球環境に寄り添い 新たな領域での価値の創出めざす

日東電工(Nitto)は、ESG(環境・社会・企業統治)を経営の中心に置き、「グローバルニッチトップ™」戦略を加速させている。得意とする電子機器や自動車向けなどの中間材料に加え、次世代医薬や水処理といった人と地球環境につながる領域での成長を狙う。4月に新設したヒューマンライフソリューション事業部門が手掛ける製品を中心に、Nittoの「グローバルニッチトップ™」戦略を紹介する。

「ライフサイエンス」から
「ヒューマンライフ」に

 Nittoの「グローバルニッチトップ™」戦略は、経営施策の大きな柱だ。成長が期待されるマーケットで先行者のいないニッチ分野を見つけ、固有の技術を生かした製品でトップシェアを狙う。これまで同社内で「グローバルニッチトップ™」製品と認定されたものは、精密回路付き薄膜金属ベース基板、熱はく離シート、ディスプレー用偏光フィルムなど15製品群以上に上る。2021年からの中期経営計画「Nitto Beyond 2023」ではESG経営の推進を重要事項に掲げ、「グローバルニッチトップ™」製品の開発を加速させている。

 昨年、同社の重点領域の一つ「ライフサイエンス」を「ヒューマンライフ」へと再定義。従来の医療・医薬関連分野だけでなく、地球環境との共生、人々の暮らしや生命に貢献する領域にまで広げ、「ヒューマン=ヒト」に寄り添った製品開発を加速させる。

次世代医薬の主役として注目
「核酸医薬」の製造・創薬を展開

 「ヒューマンライフ」関連の具体的な取り組みは、「人々の暮らし」「生命への貢献」「地球環境との共生」の3つのアプローチで進める。具体的には、「核酸医薬受託製造・ポリマービーズ」「医療・医薬用製品」「核酸創薬・DDS(ドラッグデリバリーシステム)技術」「パーソナルケア材料」「水処理・気体分離膜」といった事業を推進する。中でも特に成長が期待されているのが核酸医薬関連だ。

 核酸医薬は、遺伝情報をつかさどるRNA(リボ核酸)などの物質を医薬品に応用するもの。遺伝子の異常によって起きる希少疾患の治療に期待されているが、最近は脂質異常症や高血圧といった生活習慣病での開発・実用化も進む。次世代医薬の主役として注目される医薬品だ。新型コロナウイルスのワクチンにも核酸医薬の一種が使用されている。Nittoは現在、核酸医薬関連事業を次の成長ドライバーと定め、受託製造と創薬事業を手掛けている。

次世代医薬の主役として注目 「核酸医薬」の製造・創薬を展開

次世代医薬の主役として注目 「核酸医薬」の製造・創薬を展開

4つの基幹技術を複合・発展
新需要切り開く「三新活動」

 Nittoが核酸医薬分野に進出できた背景には、同社の基幹技術と「三新活動」という独自のマーケティング活動がある。Nittoは創業以来培ってきた高分子合成技術と加工技術から生み出された4つの基幹技術を持ち、それらを複合・発展させることで、これまでさまざまな事業領域を拡大させてきた。こうした技術で新製品の開発と新用途開拓に取り組むことで、新たな需要を創造するのが「三新活動」だ。

 核酸医薬分野は、テープ製造などで培った粘着技術と高分子・精密粒子合成技術の応用から始まった。まず、核酸を合成する際に足場材料となる微粒子「ポリマービーズ」を開発。2005年、核酸合成材料事業をスタートさせた。2011年には、核酸原薬を製造する米アビシアバイオテクノロジーを買収し、受託製造への参入を果たす。ここ2年は、新型コロナワクチン向けの免疫補強剤の製造を受託し、需要拡大に対応している。加えて現在は、核酸医薬の設計技術とDDSを組み合わせ、核酸の創薬まで手掛ける。

三新活動

三新活動

「楽しみな投資」の判断軸は
成長が期待される市場であること

 Nittoの核酸医薬事業は、初めから順調だったわけではない。現在、ポリマービーズは「グローバルニッチトップ™」製品に育っているが、黎明期とも言える開発当初は需要も少なく、業績への貢献は限定的だった。しかし、「楽しみな投資」として事業継続を許されてきた経緯がある。受託製造についても、製薬会社の医薬品開発が途中で中止になり頓挫したこともあった。ただしそうした時期にも、市場の伸びを確信し、必要な設備投資を続けてきたことが、今の「グローバルニッチトップ™」につながっている。

 ではなぜ、市場の成長を確信できたのか。それは、「グローバルニッチトップ™」戦略が、社員一人ひとりに浸透しているからだ。同戦略を進める上での核の一つは、成長が期待されるマーケットであること。例えどんなに面白いテーマであったとしても、この判断軸は変わらない。こうした考え方を基に、核酸医薬市場ではどの製薬メーカーがどのような疾患についてどの程度の開発段階にあるのか。常に市場をウオッチしながら、成長を見極めた。

パーソナルケア材料事業の強化
さらなるシナジーの創出へ

 核酸医薬のほかにも、「ヒト」にフォーカスしたさまざまな事業展開を加速する。従来の経皮吸収薬やテープ素材に加え、在宅医療や遠隔診断、予防医療を見据えた製品開発で「生命への貢献」を目指す。「人々の暮らし」の視点では、紙おむつやマスクなどで使う伸縮部材や不織布など衛生材料事業を強化する。この夏には、英製紙大手モンディ傘下でパーソナルケア事業を構成する4社を買収。4社それぞれの技術とNittoの基幹技術とのシナジーで、イノベーションを生み出す狙いだ。

 「地球環境との共生」に向けてのアプローチでは、高分子分離膜(メンブレン)事業を通じて貢献。独自の分離膜技術を活用した逆浸透膜などを使い、海水を飲み水に変えたり、工業排水からきれいな水を分離し再循環させたりし、水資源の有効活用や水質汚染防止につなげる。さらに、脱炭素社会への貢献に向けて、気体分離膜モジュールの開発にも取り組んでいる。

パーソナルケア材料事業の強化 さらなるシナジーの創出へ

パーソナルケア材料事業の強化 さらなるシナジーの創出へ

「メタバース」関連でも
機能フィルムの独自技術等を生かす

 Nittoの3つの重点領域のうち「次世代モビリティ」「情報インターフェース」でも、新たな領域で価値を創出し、ポートフォリオの変革を推し進める。インフォメーションとエンターテインメントを合わせた「インフォテインメント」をテーマに、車載ディスプレーをコックピットのようなデザインに進化させたり、複数かつ大型液晶ディスプレーを採用したりし、視認性・安全性を高める。

 期待が高まる仮想空間「メタバース」市場では、光学フィルム市場の次の成長点と捉え、積極的に投資する。例えば、機能フィルムを光学製品化する独自技術を生かし、メタバースの成長の鍵になる没入感を高める高精度でクリーンな光学フィルムを開発する。同時に、サプライチェーンのさまざまな場面での製品開発に関与し、光学設計ソリューション提案型のビジネスモデル確立をめざす。

 Nittoはこれからも、成長が期待されるマーケットをターゲットに、新たな領域での価値創出を続けていく。

※「Global Niche Top/グローバルニッチトップ」は、Nittoグループの登録商標です。

#2
髙﨑秀雄社長
インタビュー