日東電工株式会社

「進化するNittoのGlobal Niche Top™戦略」

#1 髙﨑社長と社員が語る

ニッチトップ製品で
「なくてはならない」ESGトップ企業へ

(左から)髙﨑秀雄 社長/山本真也さん・情報機能材料事業 開発部門/片桐慎さん・分離技術研究センター

(左から)髙﨑秀雄 社長/山本真也さん・情報機能材料事業 開発部門/片桐慎さん・分離技術研究センター

日東電工(Nitto)はESG(環境・社会・企業統治)を経営の中心に置き、Global Niche Top™(グローバルニッチトップ)戦略を加速させている。同戦略を紹介するシリーズ#1では、同社の髙﨑秀雄社長と社員2人との座談会を実施。NittoのGlobal Niche Top™戦略、注力する「環境貢献製品」「人類貢献製品」とは――。

ニッチトップは企業文化
2030年売上高比率50%以上へ

――Global Niche Top™戦略を打ち出し約20年、改めて概要を紹介してください。

髙﨑 「Global Niche Top™」という言葉は、変化しながら成長する市場で「ニッチ」な領域を見つけ、他社と差別化することでシェアNo.1を狙うNittoの経営戦略です。1990年代半ばに打ち出し、2002年に日本で商標登録しました。2010年代には、国や地域固有のニーズに応じた製品でトップシェアを狙うArea Niche Top™(エリアニッチトップ)戦略も始めました。

開発部門にいる私は、競合他社といかに差別化するか、お客さまに喜んでもらえるかを考える際、常にGlobal Niche Top™戦略を意識しています。

私のいる分離技術研究センターでは、新しい市場、ニッチな市場にどのような製品や技術を投入しシェアNo.1を取るかを重視しながら最先端技術を開発しています。入社7年目ですが、こうした意識や行動が根付いた会社だと実感しています。

髙﨑 うれしいですね。2人のようなエンジニアだけでなく、Nittoグループ全体にGlobal Niche Top™戦略は浸透しています。今や、経営戦略というよりもNittoの企業文化そのものなのです。

髙﨑秀雄 社長
髙﨑秀雄 社長
1978年日東電気工業(現日東電工)入社。電子材料、光学材料など同社の幅広い部門を歩む。2014年から現職

昨年発表した中期経営計画「Nitto for Everyone 2025」で、初めてニッチトップ製品の売上高比率の目標を設定しました。2023年度に44%だった売上高比率を2030年には50%以上にする目標です。達成に向けては、持続的な成長と高収益を生み出すとともに、ニッチトップ製品を増やしていかねばなりません。

髙﨑秀雄 社長
髙﨑秀雄 社長
1978年日東電気工業(現日東電工)入社。電子材料、光学材料など同社の幅広い部門を歩む。2014年から現職

透明粘着シートと偏光板を一体化
「PWO(Polarizer with OCA)」

――「環境貢献製品(PlanetFlags™)」「人類貢献製品(HumanFlags™)」を創出し、Global Niche Top™戦略を推進していくと掲げています。その狙いと具体的な製品例を紹介してください。

髙﨑 2022年に、ESGを経営の中心に置くと宣言し、ESG以外の新規テーマはやらないと決めました。その方針を具現化するスキームが「環境貢献製品」「人類貢献製品」です。これから開発する技術テーマは、どちらかに該当しないと認められません。2024年11月時点で24製品を認定しています。

「環境貢献製品」の一つ「PWO(Polarizer with OCA)」の開発を担当しています。ディスプレイパネルに使用される偏光板や透明粘着シートなど、お客さまがこれまで別々に購買していた部材をNittoが組み合わせて提供する製品です。貼り合わせる工程や検査回数を減らすことで生産効率を上げるとともに、剥離ライナーなどの廃棄物の削減にも貢献します。

山本真也さん
山本真也さん
2012年入社。情報機能材料事業 開発部門で主要顧客向けの光学用粘着テープ、PWO(Polarizer with OCA)の開発に従事

エンジニアとしてお客さまの技術部門や工場の方と接していますが、導入時に苦労したものの、今は「ずっと使いたい」と喜んでいただいています。

山本真也さん
山本真也さん
2012年入社。情報機能材料事業 開発部門で主要顧客向けの光学用粘着テープ、PWO(Polarizer with OCA)の開発に従事

髙﨑 約10年前から取り組んできて、やっと機が熟した製品です。お客さまのESGへの関心の高まりなど、社会の潮流の後押しもあり、お客さまにとって「なくてはならない」製品としてメリットを理解いただけた。こういう製品をもっと増やしていきたいですね。

PWOの構造と使用例

COP29でも展示「CO2分離膜」
実証実験を重ね、社会実装へ

――「環境貢献製品」の候補になっている「CO2(二酸化炭素)分離膜」は、どのような製品ですか。

片桐慎さん
片桐慎さん
2018年入社以来、CO2分離膜はじめ次世代分離膜の開発に携わっている

昨年7月、Nittoは、工場などから排出されるCO2を分離・回収し化学原料に変換する「ネガティブエミッションファクトリー(NEF)」構想を発表しました。CO2分離膜は構想の足掛かりとなる技術です。滋賀事業所で実証実験を行っており、結果を公表した直後から、お客さまや研究機関などから多数の声が寄せられるようになりました。今年11月開催の国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP29)のジャパンパビリオンでも技術展示のテーマに採択されました。非常に期待度の高いテーマだと感じています。

片桐慎さん
片桐慎さん
2018年入社以来、CO2分離膜はじめ次世代分離膜の開発に携わっている

髙﨑 脱炭素化に向け、CO2を地中に埋める方法などもありますが、NEF構想はCO2を有効活用するもの。我々は循環経済の実現に向けて取り組んでいます。Nittoの分離膜の歴史は約50年にわたりますが、これまでは対象が液体だった。これからは気体も対象に技術を磨いていくことが重要だと考えています。

今後、お客さまの工場などで実証実験をすることになりますが、工場ごとに排出されるCO2の成分は異なります。フレキシブルに対応できるよう滋賀事業所で検証しながら2025年末には量産を開始し、社会実装していきます。

「ネガティブエミッションファクトリー(NEF)」構想

ESGはコストではなく投資
普段の仕事がニッチトップに

――「Nitto流ESG経営」とはどのようなものでしょう。

髙﨑 ESGはコストではなく投資。中期経営計画でも、ESGへの投資は「未財務」と示しています。「未だ財務にならずとも未来につながり、財務となって利益を生んでいく」という考え方です。

モバイル機器向け製品の開発では、環境負荷が高いものはお客さまに購入いただけなくなるステージに入ってきたと感じています。開発の段階から環境負荷の少ない製品づくりを皆が意識しています。2年ほど前に、髙﨑さんが「ESGテーマ以外はやらない」とはっきり打ち出してくれたことで、悩まずに進んでいこうという気持ちが強くなりました。

私は「よし、来た」とモチベーションが上がりました。「CO2分離膜」という新規事業を担っている立場としては、CO2削減のためのトータルソリューションを提案できるように技術開発を進めていきたい。その実現が脱炭素化への貢献、ひいてはニッチトップ製品につながると考えています。

地球環境・人類社会になくてはならない

髙﨑 頼もしいですね。「ニッチトップを目指せ」と号令をかけなくても、普段の仕事ぶりが、自然とニッチトップ製品につながっていく。これからは、「環境貢献製品」「人類貢献製品」と認定したものをニッチトップ製品に育てていく。これがNitto流ESG経営です。

Nittoグループ自身の環境への取り組みでは、中期経営計画で「環境系」の未財務目標を掲げています。8月には、パリ協定に沿ったCO2を含むGHG(温暖化ガス)排出削減の目標設定「SBT(サイエンス・ベースド・ターゲット)」認定を取得しました。スコープ1とスコープ2はより高い目標に見直すとともに、スコープ3は新たに目標を設定、サプライチェーン全体でGHG排出量の削減を目指します。

「Nitto Innovation Challenge」
多様な人財がチャレンジを楽しむ

――ニッチトップ製品や環境貢献製品、人類貢献製品は、どのような環境から生まれるのでしょう。

髙﨑 2020年度から、新規事業創出に向けたアイデアコンテスト「Nitto Innovation Challenge」を実施しています。世界各地のNitto従業員からアイデアを募集し、事業化できそうなテーマに伴走者を付けたり、「経営ファンド」などで資金面から支援したりする仕組みです。今年度のエントリー数は過去最高で1500件を超えました。もともと、変化こそチャンスと捉え、チャレンジを応援する文化が根付いていますが、最近は「チャレンジを楽しむ文化」にステージが変わってきています。

片桐慎さん 髙﨑秀雄 社長 山本真也さん

環境貢献と経済価値を両立させる技術開発に取り組んでおり、「経営ファンド」を使わせていただいています。実現には高いハードルがありますが、期待も大きいテーマなのでやりがいを感じながらチャレンジしています。

私の事業部は新しいものを生み出していくのが当たり前の組織風土があるので、Nittoグループ内のいろいろな部署と連携してチャレンジすることも当たり前。プレッシャーはありますが、やりがいでもあります。

社会課題の解決と
経済価値の創造の両立を目指す

――今後の意気込みを含め、日経電子版読者にメッセージをお願いします。

髙﨑 4月にEU(欧州連合)で、特定製品のメーカーに修理を義務づける「Right to Repair(修理する権利)」指令が採択されました。こうした機運を受け、スマートフォンのバッテリー交換や、家電のリサイクルなどの際、フィルムなどをきれいに剥がして有効活用するニーズが高まるはずです。これまで準備してきたNittoのさまざまな剥離技術が貢献できると見込んでいます。

現在、次世代の光学粘着テープの開発を進めています。まずは、その製品を確実に立ち上げ、お客さまに喜んでいただきたい。将来的には、開発業務に限らず、いろいろな仕事にもチャレンジしたいと思っています。

排ガス市場への分離膜の上市は、国内初の試みです。競合他社の技術もレベルアップしていくと思うので、負けない技術を開発していきます。最終的にはNEF構想をしっかり実現させたいと考えています。

髙﨑 2030年に「なくてはならないESGトップ企業」となるために、世界中でお客さまにとっての「なくてはならない」を追求し、存在価値を高めていきます。実現に向け、これまで実績を積み重ねてきたGlobal Niche Top™戦略を貫いていく。この姿勢はこれからも変わりません。社会課題の解決と経済価値の創造の両立を目指すNittoに、今後もご期待ください。

※「Global Niche Top」「Area Niche Top」は、日東電工の登録商標です。