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トップメッセージ

「変化こそチャンス」の発想で強靭な企業体質を追求

2022年度は厳しい経営環境でしたが、Nittoグループが総力を挙げて事業にまい進した結果、売上収益9,290億円、営業利益1,472億円と過去最高を更新することができました。

この1年は、中国のゼロコロナ政策をはじめ、ロシアによるウクライナ侵攻といった地政学リスクに加え、物価高騰、金利上昇といった事態が生じたことから、先を見通しにくい1年でした。一方で、為替相場が円安にシフトしたことによる恩恵を受けるなど、経営を取り巻く環境はさまざまな面が複雑に絡み合った状況でした。

世界経済は先を見通すことが難しいとはいえ、経営者として一定の幅のもとでシミュレーションを行い、経営リスクについて的確に把握することが重要と考えています。それとともに、外部環境の影響を受けにくい強靭な企業体質を構築しながら、変化に対して臨機応変に対応することが必要です。Nittoグループでは、全社で取り組むべき課題を共有し、役員および従業員が一体となって取り組んだことが、2022年度の好業績につながったと考えます。

強靭な企業体質の構築のためには、事業ポートフォリオの変革が重要です。Nittoグループでは、回路材料などを手がけるICT 事業や核酸医薬などのメディカル事業などが伸長を続けている中で、積極的な投資を通じて事業の新たな柱を立てようとしています。強固な事業ポートフォリオの構築に向け、一歩ずつ着実に前進しています。

今から約45年前、私がNittoに入社した頃、当時の社長がしばしば口にしていたのが、「変化こそチャンス」という言葉でした。この言葉は半世紀近い年月が経ても私の心に刻み込まれています。一般的に変化の到来に対してはピンチと考えがちですが、変化があるところにチャンスがあるというポジティブな発想は、新入社員だった私に強烈な印象を残しました。

その後、Nitto グループは成長を遂げつつ、変化するマーケットを探索していくことで、多くのニッチトップ製品を創出してきました。

構造改革と成長戦略の両輪を回すことで持続的成長を可能に

この十数年を振り返って、Nittoグループは大きな変化=逆境を何度も経験しました。特に2008年のリーマン・ショックを契機に世界的な不況が到来し、当社も一時的に業績が大きく落ち込みました。しかし、社内では変化をむやみに恐れるのではなく、むしろチャンスと捉えて、事業活動を進めました。そして、平時では難しい「止める」または「縮小する」という決断を下した一方で、伸ばすと判断した製品には惜しまず投資を行いました。この構造改革と成長戦略の両輪を回す取組みこそが、Nittoグループの持続的成長を可能にする原動力となっています。

そして今、環境問題という大きな変化が生じています。カーボンニュートラルをはじめ事業における環境負荷の低減は対応が容易ではありません。これに対して、当社ではリスクと機会を適正に捉えつつ、お客様に対して環境負荷の低減に資する製品の提案に注力しています。これが「PlanetFlags™/HumanFlags™(環境・人類貢献製品)」です。

人類貢献の分野においては、これまでも多数の製品を上市しています。今後は環境貢献の分野でさらに製品を増やしていくことが重要と考えています。事業の現場では既存品をご利用いただいているお客様がいる中で、製品を一気に変えるのは簡単ではありません。しかし、カーボンニュートラルなどに対する規制やサプライチェーンの要請が強まる中、既存品を引き続きご利用いただくことが長期的にお客様のためにならないケースも出てきます。そのため、密接なコミュニケーションを通じて環境負荷の低減につながる製品の利用を提案することが、結果的にお客様の利益につながると確信しています。

今後、外部環境の影響を受けにくい強靭な企業体質の構築に向けたNittoグループの課題は、サプライチェーンの川上領域、すなわち原材料の安定調達です。加えて、地政学リスクが増していることも重要な課題です。世界中で化学物質規制が強化される現在、サステナブル調達にこれまで以上に注力しなければならないと考えます。特にニッチトップ製品を作り出すうえでは、こうした影響を受ける恐れのある原材料を使用しているものも少なくありません。もし環境規制や地政学リスクによって供給の蛇口を止められると甚大な影響が生じます。これに対して、当社では社内にサプライチェーンコミッティを立ち上げ、調達部門や各事業部門の開発部などの主要組織を交え、調達におけるリスクの洗い出しと対策を進めています。

世界において「なくてはならない存在」としての Nittoグループへ

Nittoグループでは、「2030年ありたい姿」を描き、それを実現するための最初の3年間(2023年度から2025年度)を実行期間とする、新たな中期経営計画「Nitto for Everyone 2025」を策定しました。2030年ありたい姿とは、「ニッチトップクリエーターとして驚きと感動を与え続ける『なくてはならないESGトップ企業』」です。世の中で「あったらいいな」の存在にとどまらず、Nittoらしさを追求して「なくてはならない」存在を目指します。具体的には、ESG経営とニッチトップ戦略を融合させることで、お客様および社会、さらには地球にとって「なくてはならない製品、サービス」を、これまで以上に数多く創出していきます。

そして、ESG経営を推進するため、社内におけるESGの取組みにも並行して注力しています。当社では財務以外の情報を「非財務」ではなく、あえて「未財務」と呼んでいます。これはESGへの投資は未来に向けて財務価値に転ずるという考え方です。未財務に関する指標は、人財・チームの活性に関する人財系、「PlanetFlags™/HumanFlags™」やニッチトップ関連の製品系、脱炭素や資源循環といった環境系に分けています。これらにおいては、既存指標に加えて新規指標を拡充するとともに、各指標の目標達成に向けて取組みに注力しています。

ESG経営の具体的な取組みとしては、TCFDへの賛同表明をはじめ、2050年カーボンニュートラルの実現、PlanetFlags™/HumanFlags™をニッチトップ製品に育てること、サステナビリティ基本方針の策定、女性従業員の活躍推進に向けた施策の実行、ESG専門組織の立ち上げなどが挙げられます。

特に「Nittoグループ カーボンニュートラル2050」では、2030年度までにCO2排出量を470千tonにすることをコミットしています。それに向けて、新中期経営計画では3年間累計で300億円を脱炭素の取組みに投資します。さらに、2030年度までの投資規模を600億円から800億円に増額し、前倒しで達成できるように取り組んでいきます。新中期経営計画における環境系の未財務指標には、廃プラスチックリサイクル率やサステナブル材料使用率も盛り込み、脱炭素以外の環境面での取組みも加速させていきます。

ESG への投資と業績向上の両立が経営トップの使命

ESG 経営のあり方については、当初は経営トップとして迷いがなかったわけではありません。ESG への投資と業績向上の両立をいかに図っていくか、この課題は容易に解決できるものではありません。しかし、熟慮の末、「ESGを経営の中心に置き、Nittoらしい取り組みを通じて、社会課題の解決と経済価値の創造の両立を追求する」ことに至ったのです。投資というからには、ビジネスにおいて確実に回収しなければなりません。PlanetFlags™/HumanFlags™をお客様に提供し、適正な利潤を上げて、その一部をさらなる製品開発に回していくことが経営トップとしての使命と考えています。

これまでに独自の基準に基づいて10製品を認定しました。2022年度は創立記念日における表彰の場で、社長賞などに加えて、PlanetFlags™/HumanFlags™に関わった従業員を表彰しました。今後、認定製品をさらに増やしていきたいと考えており、すべての開発テーマをPlanetFlags™/HumanFlags™の基準に合致するものに絞り込むようにしました。併せて、既存事業もPlanetFlags™/HumanFlags™に置き換えていくことを考えており、まさにNittoらしい事業展開を加速させていきます。

外部の方々からは「もうすぐ1兆円企業ですね」と言われることがありますが、私としては収益性こそが重要であると考えています。大切なことは営業利益率17%の実現です。ROEにしても二桁以上の維持が必須であると考えます。営業の現場としては、営業利益を若干落としてでも売上げを伸ばしたいと考えかねませんが、そうするとNittoらしさが失われてしまいます。ですから、当社はいずれの事業においてもボリュームゾーンに参入することはありません。ボリュームゾーンで戦うということは価格競争と営業利益率の低下を意味します。われわれが追求すべきはハイエンドの領域です。ここは市場のボリュームは限られるものの、ニッチトップとなることで収益性が高いビジネスを展開できます。さらにミドルレンジまでがNittoグループの守備範囲であり、ここでは特許戦略に基づくロイヤリティビジネスなど、ハイエンドの領域とは異なるビジネスモデルを展開することで、高収益を確保することができます。

また、事業活動のほか、Nittoグループはグローバルで社会貢献活動も行っています。その一つが男子プロテニスシーズンの最終戦である「Nitto ATP ファイナルズ」への協賛です。この協賛活動の一環として、社会貢献活動を行っています。今後もこのような活動を継続し、より良い社会の実現に貢献していきたいと考えています。

事業部間の壁を破り、事業領域の融合を促進

Nittoグループは三つの重点分野を「デジタルインターフェース」「パワー&モビリティ」「ヒューマンライフ」と再定義し、脱炭素やデジタル化、健康・長寿などの社会変化に対応した事業展開を進めています。再定義に際しては、2030年を見据えた市場のあり方などについて、若手社員も交えて社内で盛んに議論しました。

新たな重点分野では、三つそれぞれの領域を個別に捉えるのではなく、各領域が交差する部分でNittoグループの強みが発揮できると考えています。たとえば、「デジタルインターフェース」と「ヒューマンライフ」が交差している領域では、患者様への負担の少ない高機能素材を活かしたデバイスを軸にデジタルヘルスのビジネスが立ち上がっています。今後、事業領域の融合を促進することで、従来にないニッチトップ製品を創出していくことが狙いです。

Nittoグループでは事業部制を敷いていますが、変化の時代において各事業部だけの取組みでは新たな価値の創出は難しく、ときに組織の壁を乗り越える、もしくは壁を打ち破る必要が出てきます。経営トップとして、組織の壁を越えて全社横断的な挑戦ができる環境を整えていきます。

さらには思い切った人事施策も行っています。各事業部のトップを入れ替えることで、事業領域の融合を加速させます。一見、無謀な取組みと思われるかもしれませんが、それによって実力を発揮できる人財が揃っていることもあり、事業部間の連携で効果を発揮しています。

持続的な成長に向けて人的資本経営への取組みに注力

Nittoグループが2030年ありたい姿に向けて前進していくために最も重要と考えているのが人財です。これから先、人工知能など技術の進展により、さまざまな業務が自動化されていきますが、考える仕事、新たな価値を創出する仕事を担うのは人間であり続けます。そのため、Nittoグループでは、全ての従業員が活き活きと働く会社を目指し、人的資本経営への取組みに力を注いでいます。人財の採用および育成を通じて、従業員一人ひとりの成長を促し、経営人財育成まで取組みを強化しています。

売上高における海外シェアが80%以上となり、従業員の約70%が海外で活躍している中で、DE&I は重要な課題といえます。その一環として、Nittoグループではグローバルリーダーの育成に注力しています。具体的には、グローバルリーダー育成プログラムNittoGlobal Business Academy(以下、「NGBA」)の海外エリアでの実施、サクセッションプランの運用、幹部候補生の国際間ローテーションや海外トレーニー制度などを進めています。また、NGBA卒業生の海外人財を日本に招いてマーケティング活動に従事してもらうなど、人財の多様化を促すとともに、エリア間をまたがる事業創出に役立てています。

併せて、女性従業員の活躍推進も重要課題の一つと捉えています。その一環として、組織を牽引するリーダーの育成を目的とした、女性リーダー育成プログラム「FLOWERプログラム」をスタートさせました。このプログラムでは、参加者に経営幹部と話す機会やマネジメント能力育成研修を提供するなど、前向きな活動を行っています。

「安全をすべてに優先する」方針のもと、事故・災害ゼロを目指す

人財の育成とともに、製造業としてESG 経営の根幹を成すのが、業務における安全です。Nittoグループは「安全をすべてに優先する」という方針のもと、あらゆる事故・災害をゼロにすることを目指し、拠点ごとにリスクを抽出して、危険の度合いに応じた対策を講じています。安全装置の設置をはじめ、身体が機械に触れることのないように遮蔽体の設置、もしくは作業者が直接関与することのない設備の全自動化などの諸施策を行っています。

製造現場における設備などのハードウエア対策に加えて、ソフトウエア面の施策も重要です。従業員の安全意識や行動などの面でも改革を推進しています。2022年度はグループ会社で大規模な火災が発生しました。また災害発生件数も横ばいの状況にあり、安全への危機感をこれまで以上に強く意識しています。

安全という言葉にはもうひとつ重要な意味があります。それは経営の安全、つまりコンプライアンスです。大企業といえども一つの不正が経営の土台を揺るがしかねません。この点、経営トップが率先して言動で示すとともに、コンプライアンスに対するグループ全体の意識を一層高めていくことが重要と考えます。

以前から、私は「移動社長室」と銘打って、秘書と数名の経営企画のメンバーとともに、各現場を訪問してきました。そこでは現場の従業員とのコミュニケーションを重視するとともに、バッドニュースファーストの考えのもと、悪い知らせこそいち早くつかむことに注力していました。コロナが収束しつつある現在、これまで以上に精力的に現場を訪れたいと考えています。そして、現場の人々との忌憚のない意見交換を通じて、安全やコンプライアンスに対する意識を共有し、「安全をすべてに優先する」方針の浸透に努めます。

地球環境、人類・社会に貢献するニッチトップ企業へ

2023年度までを対象とした中期経営計画「NittoBeyond 2023」は、目標を1年前倒しで達成することができました。そして、新中期経営計画「NittoforEveryone 2025」も目標達成に向けて前進してまいります。

冒頭で申しました通り、Nittoグループを取り巻く外部環境は厳しく、著しく変化しています。しかし、PlanetFlags™/HumanFlags™を多数創出し、ニッチトップ戦略を推進していくことで、持続的な成長を実現することができると考えます。

新中期経営計画のゴールである2025年度末に、Global Niche Top™ やArea Niche Top™となったPlanetFlags™/HumanFlags™ が多数はためく景色を見ることが私の夢です。夢は思い描くことで実現できるという信念のもと、中期経営計画を実行していきます。

Nittoグループはこれから先も、未踏の領域で挑戦し続けます。その最たるものが核酸医薬への取組みです。1世紀以上にわたるNittoの歴史の中で、人体の中に入って作用する製品は初めての挑戦となります。行く手にはさまざまな困難が待ち受けているかもしれませんが、それを克服した先に患者様の喜びがあり、事業を通じて社会に貢献した私たちの喜びがあります。

Nittoグループは、PlanetFlags™/HumanFlags™の観点から、強みを発揮できる重点分野でニッチトップ製品を創出する「なくてはならない」存在でありたいと考えています。そして、Nitto製品が組み込まれた最終製品が世の中で高く評価され、お客様の利益となることがわれわれの一番の願いです。

つきましては、ステークホルダーの皆様のご支援を末永く賜りますよう心よりお願い申し上げます。

日東電工株式会社
代表取締役 取締役社長
CEO COO

髙﨑 秀雄