市場の混乱に対処するスピードと規模はこれまで以上に大きくなった。このような混乱の中、生き残る方法はもちろん、成功する方法を知ることがこれまで以上に重要になっている。創業100年の日本の総合部材メーカーであるNittoは、このような課題に対して興味深い答えを見出している。
今日の混乱は、一夜にして巨大な市場を一掃してしまう。たとえばフィルム写真、CD、白熱電球などを想像してほしい。タブレット・コンピュータ他の多くのアイテムも、今後我々の想像以上のスピードでつまらないゴミの山になるだろう。また技術の絶え間ない進歩は産業をも変える。パーソナル・コンピュータのコモディティ化で生産メーカーがITサービスへ移行を余儀なくされ、自動車メーカーとその供給業者が、自動化、IoT、およびAIの普及により、モビリティソリューションプロバイダーになるためにどう競争すべきかを考えている。
このような市場の混乱に対処すること自体は古くから行われてきたが、そのスピードと規模はかつてないほど大きくなっている。その中で、生き残る方法、さらには成功する手法を知ることが、これまで以上に重要になってきた。
日本の総合部材メーカー「Nitto」は、これらの課題に対するいくつかの興味深い答えを持っている。この企業の持続的な成長の核となっているのは「3つの新しい活動」という意味の「三新活動」だ。三新活動は、既存製品の「新」しい用途を開拓し技術を加える、または新しい技術を用いて「新」製品を開発したうえで用途を広げ、「新」しい需要を創出する、Nitto独自のマーケティング手法である。「私たちは、お客様とともに進化し、新製品を生み出し、新市場を開拓することで競争力をつける三新活動を繰り返してきた会社です」とNittoの髙﨑秀雄社長は言う。
同社は現在、膨大な種類の製品を提供しており、その中にはスマートフォン、テレビなどで使用されている偏光フィルム、工業用粘着テープ、医療用品などの収益性の高い製品も複数存在する。そのような企業努力は見過ごされることなく、8年連続で「2018-19年グローバル・イノベーターズ・トップ100」に選ばれている。
Nittoは、これほど多くの産業でどのようにして持続的なイノベーションを実現しているのか。髙﨑氏は、「B to B企業として、業界を牽引するお客様との密接な連携が全て。それにより市場を鳥瞰的に見渡せ、常に最新情報にアクセスできる」と語る。
このNittoの戦略の重要な要素は、狙った市場セグメントのリーディングサプライヤーになること、そして提供する製品が「Global Niche Top™」の地位を維持する努力をしている点だ。「ニッチを捉える戦略は、Nittoの差別化戦略である。技術的な優位性があり、強みを活かして競争できる成長市場をターゲットにおき、そこでトップシェアの獲得を追及している」と髙﨑氏は言う。
例えばディスプレー市場は、Nittoが1970年代に電卓やデジタル時計用の偏光フィルムを作り始めた当時はまだ小さな市場だったが、その後ゲーム、テレビ、スマートフォン向けに拡大していった。Nittoは主要サプライヤーとして、市場を形成するお客様と緊密に協力しながら、継続的に高付加価値偏光フィルムの開発を行ってきた。
市場の変化に直面したNittoの戦略のもう一つの重要な要素は、その“融合”力である。
「簡単に言えば、技術の引き出しを多く持っているということ」と髙﨑氏は言う。
その代表的な製品が、プラスチック光ファイバーケーブルである。高分子押出成型技術と回路基板技術を組み合わせた結果、この製品は低ノイズ、耐熱性の特長を持ち、高速大容量通信を可能にした。これらの特長は多くの国でまもなく開始される5Gサービスのニーズを満たすのに適している。また、その期待される用途は8Kディスプレー、内視鏡、機内や車内の電気機器、さらにはドローンなどの小型稼働部品用のケーブル接続など多岐にわたる。
市場が成熟し、製品サイクルがより速く進むにつれ、Nittoはその価値を維持するために、生産プロセスや特許などの無形資産にも目を向けるようにしている。
例えばNittoは自社開発したドラッグデリバリーシステム(DDS)技術と、外部から取得した核酸医薬の技術を組み合わせて開発した薬を、製薬メーカーにライセンスする、液晶パネル用光学フィルム市場に参入する海外メーカーへ技術支援するなどが挙げられる。
「知的財産戦略と収益性はいずれも今後ますます重要になる。技術的優位性があり、世界中で強い特許を取得している事業を選択するよう留意している」と髙﨑氏は言う。
未だかつてない不安定な市場の時代でどうすれば成功できるかの解はない。しかしNittoの戦略は、過去100年で成功を収めている。Nittoは、このような変革を通じて社会的価値の創造に努めている。今年、SDGsへの貢献と自らの企業価値の両立にむけて「サスティナビリティ重要課題」を特定した。この課題は「潜在的な市場規模を決定する社会的問題の規模と深刻さ」「Nittoがこの分野で競争力のある製品を革新する潜在的可能性」の2つの基準が用いられた。「これまでNittoは、消費者の利便性を追求してきた企業だった」と髙﨑氏は言う。「しかし今後は、環境、健康、健康への貢献にも力を入れたいと考えている」。